水のなかの色

あいまいなものについて、考えごと。

何もかもやめてしまったら

もし私がいきなり何もかもやめてしまったらどうしよう、とよく思います。

数か月前から行きはじめた会社は時間どおり夕方に帰れるし、職場の周りで草花をつんできて飾っていたりするようなやさしい雰囲気のところで、やめたいなんてみじんも思わないのですが、自分がある日ふとここに行かなくなってしまうんじゃないかという考えがよぎるのです。会社だけじゃなくてこの生活のすべてをやめてしまうんじゃないかという考えすら浮かびます。いつか自分が会社員でこの土地で一人暮らしをしているのが信じられなくなってある朝とつぜん旅に出てしまったりするんじゃないかとか。

おととい会社にいるとき具合がわるくなって、それはすぐに終わったからいいのですが、物理的な自分の存在が会社から完全に消えてしまって意識だけの存在になった自分が会社のまわりをぐるぐると飛んでいるところをそのあいだずっと想像していたので、そのせいでなおさら自分がすぐに会社からいなくなるという考えが頭から離れません。もともと自分に体や手足があることもあまり信じられていないし、いつも海のなかから外の世界を見ているような気分だし、とにかく自分が不確かだからこんなこと考えてしまうのだと思うのですが。それに現実の過去の私がちょっとしたことで何かを投げ出したということが多すぎて、自分が信用ならないというのも大いにあると思います。

さいころビーズも編み物も作りおわらないまま放っていました。小学生のとき通っていたダンス教室は半年で行かなくなりました。受験勉強も途中で何度かやらなくなって、けっきょくがんばらなくても入れそうなところをみつけるまでがんばれませんでした。何より大学のころアルバイトを短期間でいくつもやめたのがよくなかったと思います。むこうからやめるように言われたこともあるし、自分でやめたのもあります。それで仕事とか労働というカテゴリーのものを自分が長いあいだ続けられるイメージがもてないのかも。

大学のころ、どうしてもうまく眠れなかった半年間があって、3日に1回深夜のコンビニに行くだけでほかは何もしていませんでした。自分以外だれもいない部屋で、だれかが作った電気をつけて、だれかが作ったペットボトルの水を飲んでだれかが作ったカップラーメンを食べて、ゴミを出して眠っているだけ。そんな日々はもう二度と送りたくないです。下手でも何か仕事をしていたほうがずっとマシだと思います。だけど今また夜に眠れなくなって昼に眠るようになったらどうしよう。眠れなくなったらどうしようって考えてそのせいでほんとうに眠れなくなったらどうしよう。そうして数日間眠れなかったらそれだけでもう会社には行けなくなってしまうでしょう。そうなったらまた何もできない生活になってしまうのかな。

会社には何人か、私が生まれるよりも前からここで仕事をしていたという人がいます。数年間より長く働いている人はもっといます。同じ時期に会社に入った人たちもみんな、少なくとも何年かはここにいるつもりでいるでしょう。私だってほんとうはそのつもりなのですが。

朝起きて夜眠れる最近のような暮らしを手放したくないです。そう、たしかに今の生活を手放したくなくて、そのためならとつぜん旅に出たくなってもおそらく実際にそうすることはないと思うのですが、つい思いついてしまうことをやらないようにするのはとてもがまんがいるはずです。旅には出なくても、もし朝どうしてももう一度眠ってしまったりしたら?仕事でとんでもない失敗をして逃げ出したくなったら?何もかもやめてしまうきっかけはいくらでも思いつくのに、それをぜんぶかわしてやめずに続ける自分があまり想像できません。こんな考えが何年もずっと続くのだとしたらそれだけでいやになります。今日はちゃんと会社に行けそうだけどこの先ずっとはわかりません。ほんとうに私はこれからどうすればいいんだろう。