水のなかの色

あいまいなものについて、考えごと。

人のいない街

晴れよりも雨よりも曇りが好きだって言ってた友だちが、道路じゅうの車には人が乗っているみたいなことを静かに話してくれたこと、思い出した。そんなに仲が良かったわけでもなく、2年間同じクラスにいただけの人。その日はよく晴れた昼間で、友だちは顔をしかめていた。といっても私はその顔を覚えていない。

私たちの教室からは大きな橋が見えた。車がたくさん行き交っていた。

動いてる車はどれも人間を乗せているんだ、その車の持ち主は今、家にいないから、その人が一人暮らしだったとしたらその部屋は空っぽだね。向こうに見えるマンションの、全部の部屋に誰かが住んでいるとしたら、昼と夜とであの建物の密度が全く違うこと、不思議だと思わない?

彼女が発した静かなトーンだけ覚えている。一言一句は違うだろうけど再現するとすればそんな感じの。いつどこで、どんな流れでそんな話になったかなんて覚えていない。何かの偶然で再会したってそんな話はしないだろうな。

その夜、私はベランダから誰もいなくなった学校を見て(私の家は学校からとても近かった)、今日の昼間はいたけれど今はそこにいない彼女の名前を思い浮かべた。彼女の家を私は知らない。私の住んでるマンションは今、昼間よりも重たいんだろうな。誰もいない道とか学校とか会社とかお店とかから人間を吸い上げてしまって。

そんなことをそのとき考えたか考えなかったか。いつもより人のいない街の話をニュースサイトで見て、そういえば最近は外が静かだなと気づいたからなのか、ずっと思い出してしまっている。